| NEXT | BACK | メモリアル | 薄雲TOP | 創作 |





心の結び目
[100,000Hitキリリク作品]



[5]



・・・・・・。
え・・・。
私もお父さんもお母さんも、そのまま固まって康介さんを見つめていて。
嘘、でしょう・・・?真っ直ぐにお父さんを見つめる康介さん。
いつもと何も変わらないのに。

「きゃーっ!!康介、さすが中田涼介の兄っ!その目、似てるっ!かっこいいとこあるじゃないっ♪」

いち早く動き出したお母さんのキラキラした高い声で意識が戻ってくる。
こ、康介さん・・・。思わず手が震えてしまう。
それが伝わったのか、康介さんが私を見た。

「順番があべこべになっちゃったけど、いいかな?」

どうしよう。
これって・・・プロポーズ、なの?!嘘ぉ・・・!
今更だけど、顔が見られない・・・。
小さくなるようにして俯いてしまった私。
熱い手が、優しく私の手を包んでくれる。
・・・やだ、涙出そう。

「結婚しよう、愛里ちゃん」

その言葉が甘く響いて耳の中でリフレインする。気付かない間に私は涙を零していた。

「愛里ちゃん・・・泣かないで」

そのとき気付いた。
私ずっと康介さんに会いたかったんだって。話をしたかったんだって。
携帯が壊れたら、もう連絡もつかないなって思ってたの。それほど遠くにいるんだって分かったら、淋しかった。でも忙しい康介さんの負担にだけはなりたくなかった。
淋しいって気持ちは、会いたいって気持ちと一緒だったんだ。
淋しいと思う気持ちは離れてる間にどんどん自分でも止められなくなるほど膨らんで。どうしていいか分からなかった。だけどそんな自分は嫌で。それなのに自分じゃどうすることも出来ないの。私の恋は、まるで康介さんにしか治せない病気みたいだって思った。
だから本当は、ちょっとだけ、ちょっとだけでも話が出来たらまた頑張れるのかもしれないって電話しようと決めてから、ずっと迷ってた。
今がとっても忙しいときだったら康介さん、用もないのに電話なんて迷惑だろうなって思ったけれど、でも。
その瞳が、目の前で笑ってくれるから。
私の返事を待っていてくれるから。

・・・私は意識を手放した。

「え、愛里ちゃんっ?!」
「ちょっと、愛里っ?!やだ、また熱ぶり返しちゃったのかしらっ」

みんなの声が遠くにあった。ただ感じていたのは、握られていたままの康介さんの手の温かさ。



目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドに寝かされていた。
重い瞼をゆっくり開けると、そこにいたのは夢じゃない康介さん。
私が起きたのに気が付くと、またかすかに微笑んでくれた。

「平気・・・?」
「あ、はい・・・。ごめんなさい・・・」
「謝らなくていいよ。今日はもう、ゆっくりして」

恥ずかしい。
康介さんが私の前髪を優しく梳いている。その感触が心地いい。

「あ、あの康介さん・・・」
「ん?何?」
「あの、その・・・」

間違いや夢じゃなければ、さっきのアレはプロポーズだよ、ね・・・?
ふわふわした気持ち。熱のせいかな、アレが現実だったのかどうか、確信が持てなくて怖い。

「ああ、さっきのこと?」
「は、はい・・・」
「ごめんね、何か随分驚かせちゃったみたいだ」

康介さんが苦笑いする。確かに驚いた。
でもね、そうじゃなくて。嬉しかったの。康介さんも、会えないことを淋しいと思ってくれてたのかなって。

「あのね、愛里ちゃん。僕考えてたことがあるんだけど、聞いてくれる?」

私は耳を傾けた。康介さんが話してくれること、ちゃんと聞きたい。

「今、研究もやっと慣れてきたところなんだ。観察とかしなくちゃいけないから、昼も夜もないんだけどね。それでなかなか愛里ちゃんに電話出来なかった。・・・いや、それは言い訳だね。僕は臆病だった」

観察やら論文やらに追われる毎日。忙しくて他のことを何も考えられないときもあるくらい。
うまくいかなくてへこんだり、逆にちょっといいことがあって嬉しい気分の時もある。
そんな日常でふと「愛里ちゃんどうしてるかな」と思うことがあるんだ。どんなに忙しくても、愛里ちゃんのことは何かのきっかけのときに必ずと言っていいほど思い出す。全然関係ないことをしているときでも、突然ふっ、とね。
それはちょうど、僕の心を一本の糸に例えると、それに出来る無数の結び目みたいなものだと思う。その結び目にぶつかると、何をしていても愛里ちゃんのことを想うんだ。
それってよくよく考えたらすごいことかもなって。別の誰でもなく、その結び目は愛里ちゃんしか思い起こさせないんだ。それって、僕にとっては愛里ちゃんは特別に大切な人だからなんだって分かった。
だからね、僕が嫌なら言ってほしいんだ。愛里ちゃんが僕のことをどう思っていても、僕は愛里ちゃんからそれを聞きたい。愛里ちゃんの心が知りたいから。
・・・なんて、普段は好き勝手してる上に随分と自分勝手な言い分かもしれないけど、ね。

そう言って康介さんは照れたように笑った。泣きたくなった。康介さんが、そんな風に考えていてくれたなんて。
そうだよ、私はこの笑顔が好きだった。一緒にいるだけでこうしてどんどん蘇ってくる想い。
康介さんは、こうして私の気持ちを大切にしてくれる。それだけで胸がいっぱいになった。
それは、社会に出て今まで少しだけ歩く速度を速めていた私に、「合わせるよ」と言ってくれるように聞こえた。

「わぉ、ラブラブぅ」
「お、お母さん?!いつの間に・・・」
「さっきの『心の結び目』がどうのこうのってとこから?」

や、やだ。これ以上ないくらいに顔が熱くて、両手で頬を抑えた。
恥ずかしくて康介さんの顔が見られないよぉ。
私は布団を頭からかぶった。
その布団の向こう側で、康介さんとお母さんが笑っていた。
・・・康介さんって実は、大物・・・?
だってこうやって自分たちのことからかわれてるのに笑ってるなんて。



| NEXT | BACK | メモリアル | 薄雲TOP | 創作 |


Copyright (C) 2003- 明鏡止水 All rights reserved
.