心の結び目
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着替えて下に下りていく。
[6]
お父さんがようやくお母さんの隣に腰を下ろす。
「・・・君が中田の息子だってことは知ってる。あいつの息子だからいいやつだろうってことも。だけどな、俺は愛里が可愛いんだ。可愛くてしょうがないんだよ。分かるか?」
「・・・はい」
「ホントに分かってるのか?」
「分かりたいと思っています」
康介さんのそのはっきりとした物言いにぐ、と言葉を呑んだお父さん。そして、ゆっくりと息を吐いた。
「あーもう、分かったよ、分かった。まったく、父といい息子といい、何てやつらだよ」
降参、とソファの背もたれにのけぞってしまった。それを見て、吹き出すお母さん。
康介さんはお父さんのあまりの変わり様にちょっと驚いていた。
康介さん、こっちのがいつものお父さんだよ?
「でも!まだ結婚はダメだぞ。早い。早すぎる。結婚を前提にっていうのだけ、許す」
「何それー。意味ふめー」
「志保は黙ってなさい」
「だあってぇ」
私と康介さんは、そんな2人のやり取りを見て顔を見合わせて笑った。
康介さんといるだけで、私、とても幸せ。
*
よくよく話を聞いてみると、やっぱり結婚の話だのなんだのというのはお母さんとあきちゃんが仕組んだことだった。仕組んだって言ったら語弊があるかな。煽った?まぁとにかく、いつまで経っても煮え切らない私たちをどうにかしようと色々考えていたらしい。煮え切らないだなんて、私たちはそんなこと考えたこともなかったのだけど。
「眉間に皺、寄ってるよ?」
「だって・・・」
私はちょっと不満なの。せっかく康介さんが会いに来てくれたのに、お母さんとあきちゃんたら。康介さんは私の眉間を優しく撫ぜる。ふふ、と微笑っている。
「やられちゃったね」
「は、はい・・・」
その指があまりに優しいから、途端にドキドキしてきちゃってどうしようもない。考えてみれば、康介さんとこんなに近くにいたこと、今までなかったな。
「僕、いつもこうなんだよね。弟と妹とはいえ、あの双子にはやられっ放しだ」
「それから、お母さんも」
「そうそう。いいように遊ばれてるね、僕たち」
見つめ合って、笑った。それがどれだけ私の心を幸せにすることか。
「会いたかった」
「私もです・・・」
一緒にいられなくても、心は繋がっていたい。そう願う。ときどき不安になるけれど、それは向こうも同じだってこと、今なら分かるから。
「今回ばかりはあの二人に感謝しなきゃ」
「え?」
「だってそのおかげでこんなに早く愛里ちゃんのそばにいていい権利を康太郎さんからいただいたからね」
「康介さん・・・」
「いつか、沖縄に来てほしい」
「はい・・・」
嬉しすぎる。私を支え続けてくれるその腕がこんなにも力強いってこと、今まで気付かなかった。
ゆるやかに、でもしっかりと抱き締められる。思わず涙が出そうになった。ぎゅっとその胸にしがみつく。
「ところで愛里ちゃん、吉沢さんて誰?」
「えっ?!あ、あきちゃんですか?ええと、その・・・」
「僕には言えない人なのかな?」
「いいえ!全然、そんなことは・・・」
必死になって弁解していると、康介さんは笑い出した。
「あはは。ごめんごめん。ちょっと妬きもちやいちゃった」
「もうっ!康介さんまでからかうなんてひどい〜」
「だって愛里ちゃん可愛いから」
かぁと顔が熱くなるのが分かった。康介さんってば、私がこうなるの分かっててこういうことするところあるんだ。そう思ったら、あきちゃんのこと悪く言えないよ、康介さん。
「幸せになろうね」
康介さん、私、今でも充分幸せです。だって私の心の結び目にも、いつだって康介さんがいてくれるから―――。
<オマケ>
高井家。夜8時。電話にて。
「嘘―っ?!信じられない!聞きたかった、って言うか見たかった!くそー、今日が当直じゃなければ今すぐそっちに行くのに!」
「ふっふっふ。いいでしょー。康太郎も完敗だったわ、あのビックリ爆弾発言には」
「うわーわーわー。ああもうっ。康兄いつまでこっちにいるのかな。明日夜までいるのかな。いたら絶対聞き出してやる。・・・あ、そうだ、志保さん明日ヒマ?うち来てよ。愛里ちゃん連れて。どうせだったらうちでもやってもらおうよー」
「ああん、それいいかもっ!きゃーどうしましょ。何着ていこうかな。聡介さんカッコイイからなー。そうそう、愛里には何着せよう。ドキドキしちゃうわー」
「あ、忘れてた。明日ってば涼介帰ってくるんだった」
「うっそー、信じられない!絶対行く!ああ、聡介さんに中田涼介・・・。目の保養になるわぁ」
「ちょっと、ちょっと志保さん?本題忘れないでよ?メインは康兄と愛里ちゃんの話なんだからね。・・・ええと、どうやって康兄を足止めするかな」
私たちはそんな二人の策略を知るはずもありませんでした。でも、まぁいいか。・・・なんて言ってたらダメですかね?やっぱり。
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