星月夜
[10]
「何、隆夫寝不足なの?」
今日も藤堂先輩に引きずられて生徒会室にいる私。
先輩自身は私を連れてきた後に今日は部活があるから遅れてくると言った。
それならわざわざ私を女子棟まで迎えに来なくたっていいのにと思う。
生徒会に入ってと頼まれたときには面倒くさいと思ったけれど、ここの人たちはみんないい人そうだから。
今日までにおおまかな仕事内容は葉子ちゃんが教えてくれたから何となく理解できた。
会長や副会長、それに会計なんかと比べたらだいぶ仕事の量も落ちるし、私でも何とかやっていけそうな気はする。
「あ?あーちょっとな・・・」
「まったゲームでしょー。早く寝なよそんなんやってないで」
「うるせーな。予約してたのがやっと手に入ったんだから仕方ねーだろ。っつーかお前何おふくろみたいなこと言ってんの」
「何その言い草。せっかく人が心配してやってるのに」
「葉子なんぞに心配されてたまるか」
「うわっ、可愛くないっ!」
「お前に可愛いなんて思われたくもないね」
「隆夫っ!」
机を挟んで向こう側にいる2人は今日も仲良く口論している。
今すべき仕事はこの前あった部長会議の議事録まとめだから、そんなに大変じゃない。
それにしてもよくけんかするなー。
初回分の議事録が大体片付いて、何気なく2人を見ていた。
「ほら隆夫、葉子。六花ちゃんが仕事しろって」
「あっ、す、すみません先輩」
「え?いや、別にそういうつもりじゃなかったんだけど」
河合さんは2人の仲裁役だ。
こうしていつも声をかけては行き過ぎるのを止めている。
でも今回はそれに私の名前を出してきたからちょっと慌ててしまう。
「隆夫のせいだからねっ」
「何で俺のせいなんだよ」
「2人とも」
「「はい、すみません・・・」」
けんかしてる暇があったら手を動かせ、と言われてしゅんとなる2人。
ようやく仕事が再開された。
「2人って、ホント仲いいね」
「「えっ?!」」
ぽつりと呟いた言葉に2人が思いっきり反応する。
そんなに反応されると思ってなかったからこっちが驚いてしまう。
「六花先輩、これのどこが仲いいって言うんですか?!」
「そーそー。こいつと俺は全然仲良くなんてないですよ」
「そうそう」
必死な2人。河合さんが噴き出している。
笹原さんがはぁ、と溜め息をついて2人を見る。
「そういうとこ。意見がぴったりって言うか」
「何よ隆夫、真似しないでよね!」
「そっちこそ!」
睨み合う2人はどれだけ言い争っていても険悪なムードにはならない。
私もそっと笑った。
「六花先輩、信じてください。私ただ幼馴染なだけなんです!ホントですよ?」
「そうかしら。同じ高校の上生徒会まで一緒だなんて、仲のいい証拠じゃないの?」
「展子先輩っ!ひどい」
笹原さんがぺろっと舌を出す。
彼女、見た目はすごく真面目で性格もそれ相応なのに、たまにこうしてちくっと痛いことを言ってくるから面白い。
こういうことも生徒会に入らなかったら見えなかった。
「そっ、そんなこと言ったら六花先輩なんてあの上原先輩と幼馴染なんですよねっ?」
「え、うん」
今日はやけに私に話が振られるなぁ。
しかも星河絡みの話か。はぁ。
溜め息をつきそうになる。
この前校門のところで鉢合わせしてから、腹が立っていたのと向こうも機嫌が悪そうだったってことで何とも気分がすっきりしない。
ただでさえほとんど会わないから、険悪になると次に会うまでの長い時間鬱々とした気持ちが心に影を落としてしまうんだ。
目の前の2人とはまるで大違いな私たち。
「どんな感じですか?あんなかっこいい人と幼馴染って」
「え?いや・・・どうだろう、私星河をかっこいいとか思ったことないから」
「ええっ?うそー、信じられない!」
葉子ちゃんが目を真ん丸くして驚いている。
私は苦笑いした。
「ほとんど生まれたときからの付き合いだし、かっこいいなんて全然。むしろ弟だねあいつは」
「弟・・・何て素敵な響き」
「アホか」
「いいじゃない夢見たって。あんな弟いたら絶対彼女作らせないよ私」
「実際いないし」
「んもー!うるさい隆夫」
河合さんが堪えきれないみたいで大きな口を開けて笑っている。
私も笑った。
「とにかくっ、私も隆夫みたいんじゃなくて上原先輩が幼馴染だったら胸張って自慢できたのに」
「俺だってお前じゃなくて中田先輩が幼馴染だったら自慢するし」
「ムカツク」
「こっちこそムカツク」
また睨み合っている2人。
この2人はこうしていることが「普通」なんだろうな。
じゃあ、私と星河の「普通」な状態って一体何だろう・・・?
「でもさ、噂では上原くんって六花ちゃんをマネージャーにするって言ってたって聞いたけど」
2人はそのまま放っておいて、河合さんがひらめいたように私に話し掛ける。
「ああ、それですか。何だか勘違いされちゃってるみたいなんですよ」
「勘違い?」
「昔、まだアメリカにいた頃に星河の試合を見に行ったりもしたんですけど、私が行ったときに偶然よく勝ってて。それで私が『勝利の女神』だ、とか何とか」
「勝利の女神、ね・・・」
「はい。星河って思い込み激しい子供みたいなもんだから、高校でもバスケ部が勝つには私がマネになって見てれば負けないとでも思ったんじゃないでしょうか」
「マネじゃなけりゃ六花ちゃんは上原くんの試合見に行ってあげないの?」
「だって別に見に行く理由がないし」
「でも昔は見に行ったんでしょう?」
「それは星河が来なきゃやだとか言って泣くから仕方なくで・・・」
「じゃあ上原くんが来て欲しいって泣いて頼めば見に行くわけだ」
「泣いてって・・・だってもうそんな年じゃないでしょう?いくら星河が子供みたいだからっていくらなんでも」
何でだろう?何だかどんどん追い詰められてる。
確かにそうかもしれないけど、いくら星河だってそこまではしないと思う。
「でもどうしても手に入れたいなら、きっと上原くんはそうすると思うよ。ううん、きっと上原くんの立場に置かれたら誰でもそうするよ。それをしないで失うくらいなら、その方がずっといいしね」
そう言って河合さんは笑った。
私は言われた意味が理解できなくて曖昧に笑い返した。
心の中では困っている。
どうしてそんなことを言うんだろう。
どうしてこんな風に言い切れるんだろう。
「私は・・・私をマネにする条件を出したから、だから条件が達成できなければそれはパァなだけだし」
「そんなことはやってみなくちゃ分からないよ。星河くんの場合それが泣く行為じゃなくて条件をクリアする、ってことなだけなんだから」
私は黙り込んだ。
河合さんの言葉は口調はのほほんとしているけれどその実結構シビアだ。
私は星河と関わることを恐れるようになってしまっているのかもしれない。
それがどうしてか自分でもよく分からないけれど、私の知っている星河と他の人が口を揃えて言う星河とはあまりにも違いすぎるから。
ううん、既にチビで泣き虫だった星河はもうどこにもいなくて、でも私が見上げなければならないくらいに大きくて卓哉さんに似てきた星河が昔みたいに私にじゃれてくることに、ただバカと言っていれば良かった時代は過ぎてしまったんだと感じている自分がどこかしらにいるから。
とにかく、今の星河に対して、心のどこかで苦手意識を持っているんだ、きっと。
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