松風
あ、今日もいた。
彼は学校で1番の人。
学校中の女の子誰もが淡い想いを抱いている。
私は図書委員。
昼過ぎの図書室で、私は彼と出逢った。
彼はサボリの常習犯だ。
頭はとても良い。
でも授業に出ているのを見たことがない。
それでも留年せずにいられるのは、有名政治家のお父さんの力だという専らの噂。
実は私は彼と同じクラスだった。
*
委員の仕事、昼当番で図書室に行くと、必ず彼はそこにいた。
そして私が入って行くと出て行く。それだけ。
それまで嫌々やっていた仕事も彼と1秒でも長くいられるかもしれないから、4限が終わるとダッシュで図書室に向かう有様。
私ってこんなんだったっけ。
そして今日。
彼は何故だか出て行かない。
手前のソファに足を投げ出して難しそうな英語の本を読んでいる。
うわ、英語出来るんだ。
・・・じゃなくて。
どうしよう。
別に知り合いってほどでもないけど、2人きり。
何か話したほうがいいのかな。
うー。
耐え切れずに口を開いた。
「あの・・・なんでいつも図書室なんですか」
思わず出た言葉は、常々思っていたことだった。
サボリなら、屋上とかじゃないのかなって。
「え?」
彼はビックリしている。
うわっ。
どうしよう。
そうだよね、驚くよね、普通。
いきなり話しかけられた上に「いつも」とか言っちゃって、まるで私が毎日見てるみたいじゃない。
実際、そうだけど。
「あ、ご、ごめんなさい・・・」
彼はその言葉に必要以上に反応してた。
「いや、いいよ、謝らなくて」
柔らかい声。
綺麗な瞳。
その存在に、吸い込まれてしまいそう。
「なんでここでサボるかってこと?」
「あ、はい・・・」
彼はちょっと考えるようにすると、目を細めた。
「初めて訊かれた、そんなこと」
「あ、ごめんなさい・・・」
「だからいいってば。俺、人に謝られんの好きじゃないんだ」
「はぁ・・・」
「屋上は中学で飽きちゃったから、図書室に移動しただけ」
飽きちゃった。
それって何か、凄い。
その時扉が開いて。
「聡」
「よぉ」
現れたのは、学校のアイドル。
2人は誰もが認める美男美女カップルだった。
「行こ」
「ああ」
立ち上がる。
彼は行ってしまう。
見ない振りしてこっそり目の前を通り過ぎるのを目で追う。
私はただの図書委員。
彼は私の名前も、知らないだろう。
ましてや、彼に憧れてるだなんて、知る由もない。
だから、そのまま。
すると彼は扉のところで振り返ってこう言った。
「じゃ、藤沢凪さん」
「えっ」
驚いて顔を上げたら、もう姿はなかった。
彼は知っていた。
同じクラスで図書委員やってる、隣の席の私のこと。
開け放たれた窓から、優しい風が吹き抜けていた。
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